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芸研日誌

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2019年11月13日

イニシエーションと苦味

こんにちは、二回生の山田です。最近ぐっと寒くなって、あたたかいお布団の誘惑に負けがちな毎日を過ごしています。あと10分だけ、あと5分だけ、あと1分だけ……気がつくと30分寝てた、なんてこともザラです。恥ずかしながら。

さて、こんな私も来週でなんと20歳を迎えます。が、こんな中学生時代となにも変わっていない自堕落さで20歳を迎えていいのか。いいや良くないということで、私は20歳になるためのイニシエーション、通過儀礼として自分に3つの試練を課すことにしました。

まず第一に、名刺交換です。サークルで役職を書いた名刺をいっぱい作ってもらったので、最近目上の方と名刺を交換する機会が増えました。その中で多くの無作法を許していただいていたのは、一重に私が学生であるからでした。私自身にもまだ未成年だから…という甘えがあったことも確かです。20歳になっても学生であることに違いはなくとも、10代と20代の応対が同じではいけない。ということで単身赴任から一時帰家していた父を捕まえて、名刺交換を教えてもらいました。父いわく名刺は片手で渡すのもOKらしく、そこが一番の驚きでした。
練習してから早速実践の機会が多々あり、ドキドキしながらもなんとか名刺を交換させてもらいました。

第二関門はコーヒーと紅茶。私は今まで緑茶、ウーロン茶、ほうじ茶、麦茶にしか触れてこなかった人間です。苦いコーヒーや味のない紅茶は苦手で、カフェで「ケーキセットでコーヒーか紅茶選べますよ」と店員さんに言われ、「あ、私どっちも飲めないんです」「あっ…」というコーヒーもしくは紅茶が飲めればしなくていい悲しい会話を繰り返してきました。そしてなぜかカフェは大抵コーヒーの方がソフトドリンクより安い。コーヒーが飲めない人間に対して理不尽な世界に従って、私は意を決してコーヒーを飲みました。
結論は、まずいの一言でした。口全体が麻痺するほど苦味。苦味の中の謎の酸味。一部始終を目撃していた母曰く、すごい顔をしていたみたいです。白バラコーヒーは飲めましたが、それが私の限界値のような気がします。少しずつ慣れればいいよ、と母は薄笑いで慰めてくれました。

第三関門はわさび。わさびさえ食べられれば、回転ずしでこない好きなネタのさび抜きを待ち続け、結局来なくて店員さんに注文するという悲しいこともなくなります。ちょうど母がスーパーでアジの刺身を購入していたので、早速わさび醤油に付けて食べてみました。結果は……

うん、食べれなくはないけど、まあないほうがいいかな…という微妙な結論。まだ舌が子供なのか、本当にわずかなわさびのピリッとした辛さで刺身の全ての味が吹き飛んでしまいました……私が微妙な顔でお刺身を飲み込んでいると、母はまた薄笑いで慰めてくれました。

イニシエーションは残念ながらほぼ失敗に終わりました。無念です。でも、それなら私は20歳になれないのかといえば、当然違います。コーヒーも紅茶もワサビも薬味も炭酸も美味しく感じなくても、私は20歳にならなくてはいけません。
布団の誘惑には抗えないし、子供舌だし、声小さいし、ダメなところに枚挙にいとまがないままで成人の大台にのることに、不安はあります。例えるなら、「二十歳」と書かれた大きなわさび色の門の先に広がった、コーヒー色の深い闇の中へむりやり一歩踏み出させられているような……何を言ってるのかわからないと思いますが、私もよくわかりません。

とにかく、どんなに不安でも先に踏み出さなければなりません。コーヒー色の闇も、わさび色の門も、いつか長い道の中で愛せるようになれればと思います。死ぬまでには克服したいので私のイニシエーションはまだまだ続きます……