TOPへ戻る

芸研日誌

芸研日誌

2019年09月04日

晩夏、南座に桜降る

こんにちは。2回生の北です。またの名を木綿と申します。

先日「八月南座超歌舞伎」を観てきました。バーチャルシンガーの初音ミクが舞台のスクリーンに登場し、中村獅童と共演する超歌舞伎。私にとっては南座での初観劇となりました。

今回の演目である新作歌舞伎『今昔饗宴千本桜』のストーリーは『義経千本桜』と初音ミクの楽曲『千本桜』に着想を得ています。枯れ果てた千本桜を守る美玖姫(初音ミク)と佐藤四郎兵衛忠信(中村獅童)が、千本桜を狙う宿敵の青龍の精(澤村國矢)と対決、退散させる物語です。

超歌舞伎は「参加型」であることを全面に押し出しています。最も特徴的なのはペンライトの存在でしょう。客席を見渡す限りペンライトが寄せては返す波のように揺れており、ここはライブ会場かと錯覚するほどの盛り上がりでした。

また、大向うの掛け声を自由に掛けて良いという点も普段と大きく異なる点です。役者が見得を切ったときに観客が屋号を呼ぶ掛け声は、ちょうど良い間合いを掴むのが難しいため、通常の歌舞伎では熟達した男性以外は掛けてはいけないという暗黙のルールがあります。ですが、この超歌舞伎では誰でも好きなタイミングで声を掛けてもよいことになっているのです。

物語の終盤、「数多の人の言の葉(観客の声援)」と「桜の色の灯火(ペンライト)」の力を借りて千本桜に再び花を咲かせる演出は特に圧巻です。

イヤホンガイドが教えてくれるタイミングに合わせて屋号を叫ぶのは想像以上に気分が高揚する体験でした。目の前で繰り広げられる物語を作る一員として更にのめり込むと同時に、役の名前ではなく演者の屋号を呼ぶことでその人の演技に対する称賛を伝えられると感じます。やっぱり名前って大事ですね。

劇のクライマックス、満員御礼の南座に鳴り響くは『千本桜』、客席からは「萬屋」「初音屋」「電話屋」と屋号を口々に叫ぶ声。降り注ぐ桜吹雪、熱狂する薄桃色のペンライト。耐震工事を経てめでたく新開場となった日本最古の劇場は老若男女の歓声で満ち、中学生の頃聴いた音楽はこの場で伝統芸能と一体になっていました。

無我夢中で振ったペンライトの向こうに自分の目指す未来を見たような、二十歳の夏でした。