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芸研日誌

芸研日誌

2020年06月17日

無い展覧会 第8回「こいの劇的瞬間」

松浪千紘 撰

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鯉は古くから絵画や陶磁器など様々な美術工芸作品で描かれるモチーフです。

特に、滝登りの場面は『後漢書』党錮伝に伝えられる故事から立身出世の象徴として好まれました。また、優遊と泳ぐ野鯉やこいのぼりもたびたび描かれてます。跳ね上がり体をそらす鯉は、掛軸のような高さのある画面でよく映える画題です。身近な場所で写生も可能なため、鯉の描写には作者の技量が顕著にあらわれるとも言われています。
そうした典型的な場面や構図の王道作品も興味深いのですが、今回はあえて、劇的瞬間を感じる鯉をピックアップしました。

ぜひ普段作品を見る時より5秒長く見てください。じわじわ来ます。

✳︎✳︎✳︎

1.二代葛飾戴斗《鯉》1840年代頃
大きく口を開け、水からいざ飛び出さんとする鯉。
どことなく誰かのボケにツッコんでいるようにも見える印象的な表情をしている。

2.河鍋暁斎《鯉幟に隠れる鬼》1871以降
鯉のぼりを縦に配置し、中にはなにか潜んでいる。それを狙う鍾馗様。
鍾馗様は中国・道教系の神様で、元は科挙に落ち自殺したものの小鬼を倒すものとなった人と伝えられる。現在では端午の節句に飾られることもある。
鍾馗様のまさに小鬼を狙うシーンだろうか。鯉の描き方としても独特で、臨場感のある作品。

3.岳亭春信《鯉の滝登り》1827-28年頃
岳亭春信は江戸時代の浮世絵師・戯作家。
中国故事に由来する伝統的な画題「鯉の滝登り」を、色彩による画面の分割やモチーフの単純化によって工芸的とも言える版画に仕上げている。
現代においてもどこかに飾ればお洒落に見えそうなデザインとは思わないだろうか。

4.白井可交斎《波鯉蒔絵盃》江戸時代、19世紀
鯉を蒔絵で表した漆工作品。
水面から顔を出す鯉は両ひれを広げ、尾は荒ぶる波の中に垣間見える。
もしや溺れているのでは?と思うと、そうとしか見えない。

5.河鍋暁斎《鯉》1868-1889
光の如き速さで飛び込む鯉!?と見紛う衝撃的な一作。
落款を見ると、上下反対であることが分かる。
海外に収蔵されているためであろう。
その偶然が、劇的な瞬間を生み出す、唯一無二の鯉。

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Web班コメント

・一瞬「恋」?と思いましたが、「鯉」の劇的瞬間でしたか…!滝登りはよく描かれる画題で応挙も《龍門鯉魚図》を描いています。垂直に流れ落ちる波間から見える、真っ直ぐとした鯉の身が印象的ですが、ここまで動的ではなくてどこか静かな感じがします。この鯉たちは滝に翻弄される姿がアクロバティックで面白い!(田部)

・最初小さい画像で見た時、5の作品の驚くべき構図に二度見してしまった。残念ながらそれは勘違いだったわけだけど、ハンコがサインより上にあったら逆さまだという常識が世界には通用しないということを知れたのが収穫だった。(田島)

・岳亭春信の鯉は、今ペーパークラフトにしてもお洒落。或いはもっとデフォルメして「滝登りロボ」にもできそう。(畑中)

・犬、猫といった動物モチーフの展覧会は最近増えてきていますが次は鯉がブームになるのでしょうか…。魚って無表情だと思っていましたが、こうやって見ると表情が無いようで結構豊かですね。(森)

・1の作品、なるほど確かに言われてみればツッコミに見えますね。体をかなり大きく捻っていて、そのまま反時計回りにヒレを振り抜くのが目に浮かぶようです。リアクションが大きい芸風。(北)

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森さんからバトンを受け取りました。修士1回の松浪です。

関西弁では、「鯉」は「こ↓い↑」と発音し、「恋」は「こ↑い↓」であるため、普通は区別が可能です。
しかし、私はなぜかこの関西弁の「こ↓い↑」が発音できません。そのため、「こいの話なんですけど」と先生に鯉の描かれ方について相談した際、恋愛相談と勘違いされたことがあります。
さすがに先生に恋愛相談はなかなかできませんし、ましてや芸研日誌で恋愛を語る機会なんて……。

だが私は、鯉の作品が好きだ!鯉に恋していると言っても過言ではない!
私は芸研日誌でこいバナをするんだ!!

こんな訳の分からないことを自信満々に言えるほど、鯉の作品が好きです。
そのためこれまでも何度か研究室やWeb班の中で鯉の作品について紹介したり相談したりしたことはありました。私が卒業論文で取り上げていたゴットフリート・ワグネルの旭焼でも、お気に入りは鯉図のものです。
とはいえ今回は自分の中でも初めての視点で鯉を集めたので、感想を見ていると、アクロバティックだとかペーパークラフトの案とか芸風とか、鯉に用いたことがあまりないワード(というか発想そのものかも)が出てきて面白かったです。

鯉を表した作品は本当にたくさんあります。その魅力も多種多様。
ぜひみなさんも推し鯉を探してみてください。

そして次回はとうとう最終回!
ラストを飾るのは田島先生です。展覧会名は「吹き出しを付けたい歌麿」。
歌麿作品の新しい楽しみ方に出会えるかも……!?