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芸研日誌

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2020年06月18日

無い展覧会 第9回「吹き出しを付けたい歌麿」

田島達也 撰

吹き出しを付けたい歌麿

美人画の名手として知られる喜多川歌麿。彼の美人画が優れている理由はいくつもあります。流麗な線描と魅力的なポージング、大首絵による微妙な表情の描き分け、おひさ・おきたなど実在の人物をキャラクター化する手腕。そしてここで特に強調したいのは、人々の生活のリアリティです。母親と若い娘、幼児、赤子らの様子は歌麿が身近に観察した情景を目の前に見るようです。人物同士の関係性や気持ちがありありと伝わってきます。
こういう作品を見ていると、我知らず登場人物のセリフをつぶやいている自分に気付くことはありませんか?そこで吹き出しを付けて思い切り登場人物に会話させたくなるような作品をピックアップしてみました。見ていただく方には自由にセリフを考えてもらえたらと思います。
蛇足ながら、参考までに私の耳に聞こえてきた彼らの声を記しています。

ギャラリーへのリンクは→こちらをクリック

作品タイトルをクリックすると、Google Arts & Culture上の作品解説のページに飛ぶようになっています。合わせてご鑑賞ください。

1.《衝立の男女》 ボストン美術館

若い女「ん〜なんかいい匂いがする」
若い男「お嬢さん鼻の穴が広がってますよ」

2.《刺身の支度》 ボストン美術館

娘「すりすり、すりすり、すりすり」
母「あんた口じゃなくて手元に集中しな」

3.《絵本四季花》 国立アジア美術館(ワシントンD.C.)

父「おお雷鳴ってきた、雨戸雨戸」
三女「かーちゃん怖い」
母「早く蚊帳に入り」
次女「ぎゃー、やめてー、雷はやめてー」
長女「おまえの叫び声がうるさいよ」

4.《版画(覗き)》 メトロポリタン美術館

姉「母さんは今お化粧中だからじゃましないの」
赤子「ばーぶー」
母「ベロベロ〜」

5.《台所》(2枚組のうち右) ボストン美術館

女1「ちょっとお湯汲ませてね」
女2「あ、まだぬるいかも。ちょっと火を強くするね」
女1「ふしゃーっ」

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Web班コメント

・顔のパーツはほぼ同じなのに、眉毛の微妙なニュアンスで表情が変わるのが面白いです。雷が怖い子の姿に共感しかない(山田)

・みんなお洒落!粋な取り合わせを楽しんでそう。ファッション雑誌でよくある「1週間着回し」みたいなノリで吹き出し付けられそう(田部)

・人物の身体がとてもしなやかに表現されていますね!5のお茶碗を持つ指がすごく特徴的で何回も見ちゃいます….(池上)

・1点目の女性が何をしているのか気になります。男性の着物の柄を透かして雪見でしょうか?なんだか楽しそうです(北)

・2点目の蛸唐草の大皿は時代を表していますね(畑中)

・吹き出しから日本絵画だと北斎漫画をイメージしてしまうのですが、美人画を漫画的視点で見るのも新鮮で楽しいですね(森)

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歌麿の美人画は一見どれも同じ顔と思われがちですが、その絵の状況を考えながら見ていくと、巧みに表情を表していることがうかがわれます。しかも微妙な表情にとどまらず「変顔」まで登場します。この企画も最初は「変顔」特集にしようかと思ったくらいです。
1点目の薄物を透かして見るポーズは歌麿の得意としたもので、《針仕事(左)》などいくつかの作例があります。この絵はバカップルっぽく見えたのでこんなセリフを付けてみました。
2点目の伊万里の蛸唐草に注目されたのはお目が高い。このボストン美術館本ではかなり色が褪色していますが、東京国立博物館本では染付の青い色がよく残っていて皿の感じがよりリアルです。
3点目は娘たちの三者三様の表情にリアリティーがありますね。
4点目はメトロポリタン美術館の作品解説にも書いてありますが、視点の動きが巧みです。手前の娘の表情→手→赤子の腰→赤子の指と視線→鏡に映る母の顔→母の後ろ姿→背後の屏風→手前の娘という円運動を感じさせます。
5点目は実は2枚組で左に台所の様子が続きます。ただここでは右だけ見た方が二人の女性の関係性に視点が集中するのであえて一枚の紹介に留めています。

“utamaro”でGoogle Arts & Cultureを検索すると450点がヒットします。歌麿の全貌というには足りない数ではありますが、およその画業を知るには充分とも言えます。興味を持たれた方は他の作品もぜひ見てみて下さい。
ただし、春画も一緒にたくさん出て来ますのでお子様はご注意を。

さて、9回にわたってお付き合いいただいた「無い展覧会」もここでいったん終了になります。お楽しみいただけましたでしょうか。このあと発案者の北さんにまとめてもらいます。