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芸研日誌

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2020年06月10日

無い展覧会 第2回「静なるカオス」

山田歩実 撰

数ある絵画のジャンルの中の『静物画』は、場面に動きがない一見つまらないジャンルに思われるかもしれません。しかし、特に16〜17世紀の西洋の創意工夫が凝らされた個性豊かな静物画には、画家の技巧はもちろん、物語や寓意、当時の世相がぎっしりと詰め込まれています。絵画の中に秘められた静かな、しかし激しいカオスに注目していただきたいです。

ギャラリーへのリンクはこちら→https://artsandculture.google.com/favorite/group/hgKiLN5PWBmiKw

1. ウィレム・カレフ《ホルバインボウル、鸚鵡貝のカップ、ガラスのゴブレットや果物皿のある静物》

贅を尽くした虹色のオウムガイの酒杯や中国製の磁器の大皿はオランダの外交貿易の繁栄を表している。画家の卓越した描写力もさることながら、当時のオランダの鼻息の荒さも伺える作品。

2. エバート・コーリアー《ヴァニタスの静物》

ヴァニタスとは世の虚しさを表す静物。繁栄や享楽を表す豪華な楽器や楽譜、本や地球儀などのモチーフは、影に隠れた頭蓋骨や砂時計によって、たやすく人生の儚さや虚しさの象徴へと変容する。

3. ピーテル・アールツェン《マルタとマリアの家のキリスト》

ダイナミックな静物画かと思いきや、画面左中央に静物画の背景には聖書の一場面が描きこまれている。宗教的寓意を表すインパクトの強いモチーフ群もさることながら人物の後ろの奇怪な像が妙に気になる。

4. ウィレム・クラース・ヘダ《カキとルーマー、レモンと銀食器の静物》

ヘダのようにモノクロを基調とした食卓画はモノクローム・バンケッチェと呼ばれる。この画家の静物画の神秘的なまでの静けさは他に類を見ない。ちなみ17世紀オランダの静物画にカキとレモンが頻出するのは、医学的に良い食べ合わせとされたことも関係しているらしい。

5. ヤン・ブリューゲル《宝石と金貨、貝のある花束》

この絵は実際に見たことがあるのだが、その時の匂い立つほど鮮やかな感動は忘れられない。画家がパトロンにこの絵を花瓶の下に描いた宝石や金貨と同じ値段で売りつけようとしたのも頷ける。

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Web班コメント

・2と3に共通して見られる、刀の柄みたいな持ち手が付いた袋状のものが気になります。お金を入れるものらしいけどなぜこのような形状なのでしょうか(田島)

・これと同時代(17世紀中期)日本の静物画。狩野探幽《果実図 》
カオスからは遠い(田島)

・静物画って対象のものを誠実に描くだけと思いがちだけど、ずっしりと寓意が奥深くてびっくりしました。《マルタとマリアの家のキリスト》に聖体を表すホスチアにカーネーションで、受胎告知を表すとは知らなかった!後ろのマリアとガブリエルとぴったり合っていますね。あと牡蠣とレモンは間違いないです。(田部)

・質感の描き分けと細部までこだわり抜いた描写がとにかくすごい….金属の光沢感、トロッとした牡蠣などなど….目一杯ズームして見ても美しい!!!!(池上)

・生命感というか、生々しさが凄い。楽器や砂時計、花瓶の花までもがじっと息を詰めてこちらを見ているような……。still lifeとはまさに言い得て妙ですね(北)

・1は工芸史の授業でシノワズリを説明するときに使っています。(畑中)

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じっくり観ていただけて嬉しいです。ぜひGoogle Arts &culture のズーム機能を活用して物質の質感の描き分けや細密描写をお楽しみください。

この展覧会を通して、皆様に静物画のカオスな美しさを感じていただけたなら幸いです。もしこの展覧会から静物画に興味を持っていただけた方は、ぜひGoogle Arts &culture で「オランダ黄金時代」と調べてみてください。オランダ絵画の全盛期に誕生した、種々雑多な静物画をお楽しみいただけると思います。

明日の第3回は田部さんが癒しの展覧会をご紹介してくださいます。思わずふあぁ〜とあくびが出ちゃうような展覧会になっていますので、お楽しみに。